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トーマス・ベルンハルト 「英雄広場」

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    トーマス・ベルンハルトという作家は、かなり特異な人で
    上っ面だけ見てしまえば
    自国オーストリアに対する憎悪を、あからさまに表現した作家なのだが
    その中には、苦しい程の愛も見えて
    愛と憎悪が混在する。

          まぁ、正直、愛も憎悪も、同じようなモノではあるのだが(極論)

    1988年にブルク劇場で初演され
    大スキャンダルを巻き起こした「英雄広場」 Heldenplatz が
    ヨゼフシュタット劇場で上演されることになった。

    初演当時は、ナチの過去を持つ(と推察される)ヴァルトハイムが
    オーストリア大統領に当選し
    他のヨーロッパ各国からソッポを向かれていた、という時代背景がある。

    実際、この、ヴァルトハイム事件で
    オーストリアの、本当の意味での戦後処理が始まったと言って良い。

    オーストリアは、ナチに侵攻された「犠牲者」という局面を強調してきたが
    実は人口比率から言うと、ドイツ人よりナチは多かったのだ。

    ネオナチという程ではないが(←これは法律的に禁止されているから)
    でも、はっきり言ってしまうと、限りなく、その思想に近い人は
    今でもたくさんいる。

    が、まぁ、日本だって、外国人嫌いという人は居るから
    それだけの事実を持って、外国人に偏見あり、とは断定できないが。

    ヨゼフシュタット劇場は、8区の上品な住宅街にある
    見た目は、何という事もない建物。

    中に入ると、ちょっとギョッとすること、請け合い。
    豪華絢爛なバロックの広いロビー。
    赤い絨毯の階段や劇場内部には、ロココのデザインが金に光って
    超日常を演出する。

    来ている人たちも、お上品な熟年男女が多い。
    (まぁ、グラフェネック城なんかもそうなので、驚きはしないが)

    ボックス・シートの2列目、10ユーロの席を買って入ったら
    前の列(3席)には、上品なおばあちゃまが1人だけ座っていて
    「他に入ってくる人はいないわよ。どうぞ前にいらして」と
    丁寧なお申し出。うっふっふ、もちろん1列目に移らせてもらいました。

    Heldenplatz だが、私は初演時の DVD を持っているので
    内容も、ブルク劇場での演出も知っている。

    ヨゼフシュタット劇場では、舞台がブルク劇場に比べて狭いので
    ブルク劇場のような舞台装置は使っていない。

    その代わり、カーテンがあり、最初に俳優さんが影絵のように出てきて
    エレクトローンか木琴のような、可愛いメロディで開演。

    女中のツィッテルのおしゃべりの合間に
    下女が靴を磨くのだが、これが、緻密に計算されている。
    セリフ+靴磨きの音 という、不思議なリズムに魅了される。

    (この、セリフ+計算された音楽的雑音 というのは
     後半でも、腕輪をならしたり、お皿を並べる時の音を使ったりして
     とても効果的に使用されている。リズミックで素晴らしい)

    ところで、オーストリアのドイツ語演劇を鑑賞していて
    一番、神経に障るのは、俳優さんたちの「怒鳴り声」である。

    そりゃ、激昂したら、演者としては、アグレッシブに怒鳴る必要があるのだろうが
    ヤマトナデシコ おとなしい日本人の私としては
    舞台上でも、怒鳴られると、いたたまれない気分になってしまう。
      ほら、ワタクシ、繊細だから (違!)

    ただ、この舞台、ほとんど「怒鳴り声」がない。
    オーストリアの悪口を
    具体的な名称を挙げながら、あいつはナチだ、こいつはアホだ、と
    列記していくのだけれど
    それが、何とも静かな怒り、ないしは、諦観に満ちたやるせなさになっている。

    演劇とは言え、ほとんど動きのない2時間30分(幕間1回)
    それだけに、各人の表情や、セリフまわし
    セリフとセリフの間の沈黙に、緻密に計算された「雑音」で
    如何に聴衆を取りこんでいくかは、演出家の腕の見せ所だろう。

    DVD で観た時には、激昂した俳優さんの顔から飛び散る汗とか
    (だって、DVD なんだもん、近くから撮るから、そういうモノがイヤでも見える)
    マジに怒りにまかせた罵倒を聞きまくって
    何とも、いたたまれない気分になったが
    今回、舞台で、巧い俳優さんが
    アグレッシブなところを取り去って、淡々と悪口を言っていると
    あぁ、確かに、そういう時代もあったし
    それに、今のオーストリアも、そういうところはあるしなぁ、と納得できる。

    1列目に来たら?と声をかけてくれたおばあちゃまには退屈だったらしく
    幕間の後に戻ったら、誰もいなくなっていた。

    「楽しい」という演目ではないが
    淡々と語られるユダヤ人インテリ・ファミリーの会話の中には
    様々な隠れた秘密もあって
    (自殺した教授と女中の仲は?とか ← 邪推かもしれないが、でも何かある)
    意外に想像力を掻き立てられる演目でもある。

    オーストリア在住(けっこう、ウチネタがある)でドイツ語がわかる方にはお勧め。
    難しいドイツ語がわからなくても、日常会話が理解できれば全然問題ない。
    少なくとも10月終わりまでは、上演されている。

    再出発したランキング、どうぞよろしくお願いします。


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      • 2018.04.26 Thursday
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